電車の土木構造って何!?その2
3、山岳工法トンネル
トンネルを山や丘陵に掘る時に使う工法が山岳工法です。
最近の山岳工法は殆ど矢板工法と、
新オーストリア工法(NATM工法/ナトム工法)の2つの工法で占められています。
山岳トンネルを掘る時、
トンネル全面をダイナマイトまたは掘削機で一度に掘れれば楽なのですが、
掘る山の地質が弱い場合、一度に掘ると崩れてしまう事があります。
そのため、地質によって掘り方を変えています。
地質が悪い時は状況に応じてベンチカットや側壁導坑先進を採用します。
ベンチカットは鉱山や採石場でよく使われる掘り方で、
上から順々に階段状に掘っていく方法です。
全面を一度に掘ると、掘削面が崩れて大惨事になる可能性があるのですが、
階段状に掘る事によって、崩れた時の被害を最小限に食い止める事が出来ます。
手順としては、トンネル上半分に当たる、
上部半断面を最初に掘り、
そのあと残りの下部半断面を掘ると言うやり方が一般的です。
一方、側壁導坑先進は湧水などかなり地質が悪い時に使われる掘り方で、
先ずトンネルの壁に当たる部分を先に造るため、
完成時のトンネルの左右に当たる部分だけ小さなトンネルを掘ります。
そのトンネルを掘ったら、
矢板工法または、NATM工法を用いてトンネルの側壁を造り、
壁が崩れないようにしてから全面を掘ります。
山岳工法は矢板工法とNATM工法にほぼ限られると書きましたが、
古いトンネルが矢板工法で、
昭和50年代以降からは殆どNATM工法になっています。
矢板工法はトンネルを掘削した後、
崩れないよう横長の矢板(鋼板か木材)と、
トンネルの形をした支保工(H鋼または木材)でトンネル壁面を押さえます。
そしてその後、更にその内側をコンクリートで覆います。
道路の場合は吹き付けモルタルの場合もあるのですが、
コンクリートよりひび割れしやすく強度が弱いので、
鉄道の場合はコンクリートが一般的になっています。
矢板工法はコンクリート部分が薄いと
壁面に細長い横筋のようなものが見えるので、
これは矢板工法のトンネルだとなんとなく分かります。
一方、NATM工法は矢板工法の矢板を吹き付けコンクリートに変えたもので、
先ず、掘削した後、鋼製支保工で壁面を押さえつけ、
吹き付けコンクリートを吹き付け、壁面の強度を強化します。
更にトンネルの変形を防ぐため、吹き付けコンクリートに穴を開けて、
そこにロックボルトを打ち込みます。
ロックボルトを打ち込むことによって、
鋼製支保工と吹き付けコンクリートを
ロックボルトが引っ張るような形になります。
最後に鋼製支保工と吹き付けコンクリートの内側を、
二次覆工コンクリートで覆います。
吹き付けコンクリートはスプレーなどで吹き付けるのですが、
二次覆工コンクリートはちゃんと型枠を使ってコンクリートを流し込んで固めます。
なお、ある程度の鉄道ファンでもNATM工法のトンネルと、
この後のシールド工法のトンネルを見間違えることがあります。
特に横浜市や神戸市の地下鉄のように郊外丘陵地帯を走っている地下鉄は、
NATM工法とシールド工法どちらも採用されているので間違いやすいです。
一番の見分け方はトンネルの壁面で、のっぺりした方がNATM工法、
セグメントと言うプレートの凹凸があるのがシールド工法です。
(ただ、トンネルも古くなって黒ずんでくると見分け辛くなるのですが・・・。)
4、都市工法トンネル
4−1、開削工法
トンネルを造る場合、トンネル部分だけでなく、
地表面から掘ってしまえば作業の安全性が増し、
機材や部材の搬入も楽になります。
また、地下空間の設計自由度も増します。
地下空間の設計自由度が増せば、
かなり広い地下空間や高い天井、複雑な階層構造でも建設可能になります。
地表面から掘ってトンネルを構築し、
また埋め戻す工法を開削工法と言います。
さすがに山や丘陵では地表面から掘るのは不可能ですし、
仮に出来たとしても建設コストがかかってしまいます。
そのため、開削工法は一般的に都市部や平野部のトンネル区間、地下鉄に採用されます。
開削工法は先ず、トンネルの位置まで地面を掘り下げます。
掘り下げたところの壁は当然土で、
放って置くと風雨や地震、土の圧力などで崩れてしまうので、
土留壁という鋼板の板で土の壁を押さえて崩れないようにします。
ただ、土留壁だけだと、土からの圧力で壊れたり倒れたりしてしまうので、
アンカを地面深く打ち込んだり、切梁を設けたりして土留壁を固定します。
地表部分が工事期間中、
自由に使えるのならそのままトンネル工事に入れるのですが、
大抵、地表部分は道路(しかも交通量の多い)だったりするので、
工事期間中ずっと掘り下げっぱなしにしておく事が出来ません。
そのため、支持杭(中間杭など)と言う柱を建てて、
その上に路面覆工板と言う鉄板を被せ、掘り下げた所に蓋をします。
そうすることにより、工事期間中も地表の道路を通行止めにする必要がなくなります。
(ただ、道路部分になる路面覆工板は狭いので、
場合によっては車線減少や片側通行を強いられる。)
路面覆工板で蓋をした後、トンネル本体(躯体)の工事に入ります。
開削工法の場合、掘り下げる広さを極力狭くしたいので、
トンネル本体に無駄な空間が出来ないように設計します。
そのため、トンネル断面は山岳トンネルに使う馬蹄形や円形ではなく、
四角形(厳密に言うと八角形)にするのが一般的です。
トンネル本体が完成して防水処理が終わった後、
杭や路面覆工板などを撤去しながら埋め戻しをすると完成になります。
開削工法は工事会社が普通に所有している、
ショベルカー(バックホウ)などの一般的な作業重機で作業が出来、
トンネルに合わせた特殊な機械はいらないので、
作業機械、重機を改めて用意する必要はありません。
そのため、その分コストを下げることが出来ます。
しかし、このコスト削減メリットは「浅いトンネル」が前提で、
トンネルが深くなればなるほど掘り下げる分も深くなり、
それに合わせて土留壁や杭も大きいもの、長いものが必要になるので、
コストが急増していきます。
そのため、広い地下空間が必要な場合を除いて、
深いトンネルはこのあとのシールド工法が主流になっています。
他の欠点として、地表面の構造物や交通に支障が出ること、
工事騒音の問題があります。
更に厄介なのは、
既存の地下鉄、地下道などが上を交差している場合です。
その時は既存地下鉄、地下道の躯体をジャッキで仮止めして押さえてから、
更にその下を掘り下げていくと言うアンダーピーニング工法を採用するため、
膨大な費用と複雑な工事が必要になります。
なお、地震に関してはかつて、
「地面と一緒に躯体が揺れるので開削工法は安全だ。」
と言う根拠の無い安全神話がありました。
しかし、阪神・淡路大震災でその安全神話は見事に崩れ去りました。
一般的に開削工法を採用すると、
埋め戻した土と周囲の土とでは、質や固さが異なってしまうので、
揺れが必要以上かつ不自然に大きくなり、
つぶれるように躯体が崩れてしまいます。
新しい開削トンネルほど地面が馴染んでいないので、
躯体の壁や柱は強化する必要があります。
既存の耐震対策をしていなかった開削工法トンネルも、
柱の増設や既存の柱に鋼鉄の板などを巻いて補強しています。
4−2、シールド工法
開削工法は地表面の建物や交通の障害になる他、
深くまで掘るとコスト増になります。
また、地盤が軟弱なところでは湧水が障害になって工事が難しくなります。
そこで採用されるのがシールド工法です。
シールド工法と開削工法の採用按配は、
深さ、建設地下空間の広さ、地質、工事用地、
他の地下構造物、周辺環境+αによって決めます。
+αに当たるのは地表面に重要な構造物や史跡がある場合です。
(但し、皇居は安全面で堀や外苑を除いて地下鉄自体造れない)
しかし、東京の地下鉄を見ると、
なんだか特定の個人または団体所有の構造物や用地を保護するために、
シールド工法を採用したと見られる不可解な場所があり、
それが核シェルター説などの都市伝説を生む要因になっています。
(実際は地下鉄で使われるシールド工法トンネルでは放射線を遮断する事は出来ない。)
シールド工法は現場でパーツを組み合わせて造った、
シールド掘削機と言う大きなカッターのついた機械で掘削していきます。
シールド掘削機はトンネルの形に合わせた大きさで造られているので、
一度に全面掘る事が出来ます。
地盤が安定している場合はシールドカッター単独で掘り進められるのですが、
地盤が軟弱で掘削面(切羽)が安定しないと、
カッターが空転したり、ボロボロ崩れて掘削面が荒れ、
最悪、掘削面の大崩壊に繋がり、後方まで崩れた土砂で山積してしまいますし、
そこに作業員がいた場合は生き埋めなど命の危険さえあります。
そこで、後方に土砂が行かないよう掘削部分を密閉し、
泥水や掘削土で強制的に掘削面を固定して掘り進める方法が採られます。
泥水の水圧で掘削面を固定する方法を泥水式、
掘削した土に圧力をかけて固めたものを押し付けて
掘削面を固定させる方法を土圧式と言います。
泥水式の場合、
泥水処理施設から泥水管で掘削部分に泥水を送って、掘削面を固定します。
しかし、それだけだと掘削土で泥水の濃度が濃くなるので、
排泥管である程度濃度の濃くなった泥水を戻して、
泥水処理施設で泥を取り除いた後、
また泥水管に流すという、「泥水の循環」をさせています。
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シールド掘削機で掘削した後、
直ぐに後方にあるエレクターと言う機械で
セグメント(鋼またはコンクリートのプレート)を組み立て、
その組み立てたセグメントでトンネル壁面を覆います。
このセグメントが土の圧力を抑え、トンネルの崩壊を防ぎます。
なお、シールド掘削機の推進は、シールドジャッキに押される事によって前進します。
シールド工法は地表の建物や交通に支障が無く、工事騒音も抑制され、
工場であらかじめ造られたセグメントを掘削後直ぐに組み立てて壁面を完成させるので、
コンクリートを型枠に入れて固めるNATM工法より建設期間が短縮出来ます。
また、円形のため、土の圧力に強く、開削工法より耐震性に優れています。
更に、軟弱な地質でも対応が出来、カーブなどの曲線も柔軟に対応出来ます。
シールド工法の欠点は兎に角「高額」と言うことで、
シールド掘削機とセグメントにかなりの費用がかかります。
(1メートル掘るのに数千万円かかります。)
トンネルの構造が変わる場合、
小さい変化ならシールド掘削機のカッターを交換することにより対応出来るのですが、
駅間トンネルと駅トンネルのようにまるっきりトンネルの大きさや構造が変わる場合、
それぞれに対応したシールド掘削機が必要になります。
駅トンネルは3連などの大型で高額な掘削機が必要になるので、
通常は駅間だけをシールド工法トンネルにして、
駅部分は開削工法にすることが多いです。
しかし、東京や大阪のように沢山の地下鉄が交差している場合、
新しい地下鉄の駅はどうしても深くなるので、シールド工法を採用せざるを得ません。
〜〜〜〜〜
なお、長大山岳トンネル、海底トンネルは、
掘削をシールド掘削機で行い、壁などはNATM工法にすると言う、
SENS工法の採用もあります。
4−3、潜函(ケーソン)工法・沈埋工法
川の下をトンネルが通る場合、
広範囲を開削工法で掘り下げてトンネルを造る事は出来ません。
また、河床から浅い位置にトンネルを造る場合は、
地盤が脆弱すぎてシールド工法も採用出来ません。
そのため、河川の区間では潜函(ケーソン)工法か沈埋工法を採用する事があります。
潜函工法は河川上に矢板を打ち込み、
そこを土砂で埋め立てて島を一旦造ります。
そして、その島で脚のある躯体を造ります。
躯体が出来たら、躯体の脚の下の空間(作業室)に掘削機を持ってきて、
少しずつ島を掘り下げて躯体を下に下げていきます。
躯体が傾いたりしないでまっすぐ下がるよう、
躯体の中には水や砂、土嚢などの錘を載せます。
細かい傾きや急激な躯体落下を防ぐため、
躯体はデリックによって浮き上がらない程度の力で吊り下げられています。
(デリックは掘削土を引き上げたり、作業器具などを作業室に送ったりもする。)
デリックとは高層ビルの建設現場の一番高い所で活躍している、
組み立て式クレーンのことです。
作業室は酸素不足になったり、湧水が出ないよう、空気が送られます。
所定の位置まで躯体を下げたら掘削機は引き上げ、
作業室はコンクリートで封鎖します。
後は島全体を撤去し、河床を戻して完成となります。
「潜函工法は躯体の急激落下によって作業室が押しつぶされるなど、
作業従事者にとって危険な工法じゃないか?」と思った方が多いと思います。
確かに危険を伴う工法なので、
綿密な設計と工事計画が必要になります。
しかも、作業室は高気圧になるため、
作業後地上に出ると、「潜函病」と言う体内に窒素気泡が起きて痺れや失神、
最悪な場合は意識障害を起こす病気にかかることがあります。
そのため、最近は潜函工法の採用は少なくなり、
やむを得ず採用する場合は掘削機を遠隔操作にして、
無人で作業をする技術を使っています。
一方、沈埋工法はあらかじめ河床をトンネルの深さ分掘り下げた後、
デリックを使って躯体(細かく細分化されている)をゆっくり沈め、
各躯体を接続した後、埋め戻すという方法です。
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