電車の架線設備って何!?その2

3、吊架線とトロリー線

パンタグラフやビューゲルで集電する鉄道路線に欠かせない電線が、
吊架(ちょうか)線とトロリー線です。
トロリー線は電車のパンタグラフがそれに接する事により、
電気を電車に供給する線です。
一方、吊架線はカテナリー方式の路線で使われている線で、
トロリー線を吊り下げる目的で設けるものです。
トロリー線を吊架線で吊り下げるカテナリー方式は、
トロリー線だけの直接吊架よりたるみにくく、
支持点(振れ留め金具など)に弾力性を持たせる事が出来るので、
高速運転に適しています。


架線方式は色々あるのですが、
一番原始的なのは、トロリー線だけを張る直接吊架です。
直接吊架は設備が簡単なので、設置コストは少ないのですが、
たるみやすく、パンタグラフ等がトロリー線を押し上げるような形になるので、
摩擦が大きくなり、トロリー線の磨耗が早くなるだけでなく、
トロリー線がバウンドすることにより離線する可能性も高くなります。
また、支持点が硬くなるので、集電容量も小さくなってしまいます。
以上の欠点から直接吊架の場合の最高速度は、
時速50qがほぼ限界になっています。
そのため、採用は路面電車など高速で走らない電車に限られています。
直接吊架の逆Y線は、「カテナリー方式より建設コストを下げたいけど、
直接吊架だと高速で走れないし・・・。」と言った悩みの中出た苦肉の方式で、
支持点部分だけ逆Y線の吊架線を設けることにより、
その部分に弾力が出るようになるだけでなく、
直接吊架よりたるみが少なくなるので、
ある程度電車を速く走らせることが出来ます。
・・・とは言っても、最高速度は時速80q前後が限界なので、
この方式を採用するのは、ローカル線を電化する場合のみに限られています。
カテナリー方式で一番一般的なのはシンプルカテナリーで、
吊架線から一定の間隔でハンガーを吊り下げ、
そのハンガーの先にあるイヤーでトロリー線と接続します。
この方式にすると最高速度は時速130q程度に上がり、
高速運転が可能になります。
このシンプルカテナリーを太く丈夫にしたものを
ヘビーシンプルカテナリーと言うのですが、
ヘビーシンプルカテナリーは更に高速運転が可能です。
き電吊架にしていないシンプルカテナリーの吊架線は、
一見、電気が流れていないように思えるのですが、
厳密には電気が流れています。
ヘビーシンプルカテナリーの吊架線は半き電線の役割もあります。
ただ、架線の上に陸橋や跨線橋がある場合、
吊架線とそれらの構造物の離隔距離を確保するのが困難なので、
コネクターを使い、吊架線に流れている電気をトロリー線に戻し、
その先に碍子を設けて吊架線に電気が流れないようにしています。
ツインシンプルカテナリー(又はダブルシンプルカテナリーとも言う)は列車の本数が多く、
電圧降下のおそれがある箇所で使われます。
この方式はシンプルカテナリーを2組平行に張る事により、
集電効果を高めています。
しかし、ツインシンプルカテナリーは設置や保守に手間がかかるため、
最近はヘビーシンプルカテナリーに交換されつつあります。
ヘビーシンプルカテナリーはトロリー線が太く、導体の抵抗値が低いので、
ツインシンプルカテナリー並の集電電流容量を確保する事が出来ます。
シンプルカテナリーのフィーダ(き電)メッセンジャー(吊架)カテナリーは、
吊架線とき電線を完全に一体化したものです。
今まで別々にあった吊架線とき電線を一体化することにより、
保守点検の手間が大幅に削減出来、
なおかつ、架線の景観が良くなる利点があります。
また、全体的に重量のある架線になるため、
高速運転にも適しています。
フィーダメッセンジャーカテナリーは、高速運転区間でも問題ないので、
一般的にシンプルカテナリーを採用するのですが、
超高速運転を考慮している場合は、
コンパウンドカテナリーにすることも出来ます。
フィーダメッセンジャーカテナリーの欠点は、
架線の設置や交換にコストがかかることです。
従来の吊架線の交換は、吊架線のワイヤで済んだのですが、
フィーダメッセンジャーカテナリーはき電吊架線を交換することになるので、
従来より高額になります。
また、トロリー線を交換するとき、
「面倒くせーから吊架線ごと新しくしてしまえ!」と言うようなことがなかなか出来ず、
いちいちイヤーからトロリー線を外して交換することになるので、
手間や時間がかかります。


コンパウンドカテナリーは吊架線とトロリー線の間に
補助吊架線を設ける方式です。
吊架線と補助吊架線はドロッパ、補助吊架線と
トロリー線はハンガーで接続します。
そのため、どちらかと言うと、
補助吊架線の方がシンプルカテナリーで言う吊架線に当たります。
コンパウンドカテナリーはトロリー線の張力が強固になるので、
集電電流容量を大きくする事が出来ます。
そのため、超高速運転を行なう場合は、
コンパウンドカテナリーを採用する事があります。
ただ、コンパウンドカテナリーは補助吊架線が増えるので、
設置コストや保守コストが嵩むだけでなく、
架線の高さも高くなるので、架線柱をそれに合わせて高くする必要があるので、
設備も大きくなってしまうと言う欠点があります。
コンパウンドカテナリーの合成電車線方式はその欠点を極力低くして、
コンパウンドカテナリー並の機能になるようにしています。
剛体架線は地下鉄で一般的に使われている方式です。
剛体架線の場合、硬くてバウンドのしようがないので、
常に一定の状態に保てる利点があります。
ただ、弾力性に乏しいため、パンタグラフを追従性の高いものにする必要があります。
なお、剛体架線は非常に重たいので、
地上区間でのビーム支持ではその重みに耐えられません。
そのため、剛体架線は
トンネル断面を小さくする必要がある地下鉄のみで採用されています。


一般的に不思議に感じるのが、ハンガーのイヤーとトロリー線の接続です。
電車のトロリー線は上部にくぼみがあり、
それをイヤーが挟む事によって接続されます。
なので、パンタグラフはイヤーに接触することなく、
トロリー線から集電することが出来ます。


トロリー線の交差はパンタグラフが離線してせん絡する可能性が高くなるので、
極力設けないにこしたことはないのですが、
全く設けないということは不可能なので、
交差地点は交差金具を用いて上側になるトロリー線の高さを低くして、
離線する距離を短くして対処しています。
なお、せん絡のリスクを減らすため、
トロリー線の交差箇所は本線側のトロリー線を下側にします。

4、セクション

吊架線やトロリー線は無限大に長くする事は出来ないので、
適当な間隔で切れ目が必要になります。
また、それ以外にもき電区分上、流れる電気を分ける場合も、
同様に切れ目が必要になります。
その吊架線やトロリー線の切れ目をセクションと言います。


セクションで一般的に使われているのはエアセクションです。
エアセクションは前後区間の吊架線、トロリー線を一定距離平行に張ることによって、
徐々に次の吊架線、トロリー線に移行するようにしています。
エアセクションはパンタグラフに支障が少ないので、
高速での通過が可能で、
デッドセクションのように集電が途切れる事がないので、
一般的に採用されています。
ただ、エアセクションはセクションの区間が長くなってしまうと言う欠点があります。
そのため、架線が錯綜する駅構内などでは、
FRPセクション(直流)や碍子型セクション(交流)を使います。
FRPセクションはガラス繊維の強化プラスチックを挟んだセクションで、
エアセクションに比べるとセクションの区間がかなり短くなります。
一応FRPセクションは左右にスライダーと言う金具を取り付けているので、
エアセクションのように持続して集電が出来るのですが、
エアセクションよりダブりの区間が短いので、
トロリー線のバウンド具合で瞬間的に集電が途切れる場合があります。
そうなった場合は、せん絡放電が発生し、
パンタグラフやFRPセクションを傷めることになります。
また、FRPセクションは硬いので、
高速で通過するとやはりパンタグラフやFRPセクションを傷めることになります。
そのため、FRPセクションは駅構内に限定され、本線では基本的に使いません。


交流の場合もエアセクションが基本で、
駅構内は碍子型セクションを使います。
碍子型セクションは下部にスライダーを付けているので
断続的に集電出来るのですが、
碍子の重量がパンタグラフにかかるので、
高速運転をする区間では使えません。
その他、交流は異相区分セクションがあります。
交流電化は前回の電化方式のページで書いた通り、
各変電所の0〜+〜0〜−〜0のタイミングがずれているため、
各変電所の管轄が変わる地点では必ずこの異相区分セクションが設けられます。
お互いの変電所からのトロリー線や吊架線が直接結ばれてしまうと、
短絡(ショート)事故を起こしてしまいます。
そのため、吊架線には碍子を、トロリー線にはFRPを挟みます。
FRPは電気を通さないので、
この区間はデッドセクションになり、集電が途切れます。
そのため、異相区分セクションでは加速や回生ブレーキの使用は出来ないので、
惰性走行になります。
直流区間と交流区間の境目の交直セクションは、
異相区分セクションと構造が似ているのですが、
セクション通過中に交直切り替え作業(最新の電車は自動)をするので、
その時間を稼ぐために、セクションの長さを長くしています。
また、直流と交流が完全に分離出来るよう、
FRPの区間を2ヶ所設けています。
なお、交流から直流より直流から交流の方がセクションの長さが長くなっています。
これは交流電化の方が電圧が高いため、
冒進すると危険だからです。
また、直流モードのまま交流区間に入った場合の保安装置は、
遮断器を解放して(スイッチを切ること)行なうので、時間がかかります。
なので、そのタイムラグも考えてセクションの長さを長くしています。
なお、交流モードのまま直流区間に入った場合はヒューズの溶断なので、
瞬間的に切ることが出来ます。

今回ももう1ページ続きます。毎度だらだら申し訳ございません。
電車の架線設備って何!?その3

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