電車の電化方式って何!?その2
3、直流き電方式(直流電化方式)
日本の電鉄線の大部分はこの方式です。
電圧は1500ボルトが多いのですが、
モノレール、新交通、第三軌条式地下鉄、路面電車、地方私鉄路線の一部は、
半分の750ボルトだったり、600ボルトだったりします。
直流き電方式は電気の流れが一方通行なので、分かりやすいです。
電鉄変電所から出たき電電流はき電線を流れます。
直流き電方式は、
電車の集電装置に接触するトロリー線だけでは
すべての電気を流しきれないので、
き電線を別に設ける必要があります。
(全てトロリー線で流すには、トロリー線を極太にしなければならない。
しかし、トロリー線を太くするとバウンドが大きくなり、
集電装置と離線が起こってしまう。)
直流電化線の架線を見てひときわぶっとい電線がき電線です。
電線が太いのは先に述べたとおり、
多くの電気を流す(電流を上げる)ためです。
き電線は基本的には独立して存在しているのですが、
最近流行(?)のインテグレート架線で使われる、
フィーダメッセンジャーカテナリー(架線方式の項で後述)は、
トロリー線を吊り下げる吊架線と兼用になっています。
適度な間隔でき電線はき電分岐線を分岐させていて、
その線はトロリー線に接続されています。
ここで、き電線の電気はトロリー線に流れます。
トロリー線に電車の集電装置が接触してモーター等で電力を消費した後、
車輪を通し、レールに帰線電流を流します。
帰線電流はレールを伝って電鉄変電所に戻ります。
なお、直流き電方式で電力回生ブレーキを使うと、
逆にレールから帰線電流を吸い上げ、
集電装置からトロリー線、き電線に電気を放出する流れになります。
〜〜〜〜〜
トロリー線には適度にセクション(電線の継目)を設けているのですが、
直流き電方式の場合はき電区分によるセクションよりも、
トロリー線を磨耗等で交換したりする場合、
必要以上に長い区間交換しなくても良いようにしたりする
工事的な目的のセクションが多いです。
地下鉄でよく使われる剛体架線も考えは全く同じです。
剛体架線はき電線とトロリー線が一体化されています。
剛体架線の導体成型部分がき電線になり、
トロリー線部分はその導体成型部分の下に取り付けられています。
第三軌条(サードレール)式はき電電流を流すレールを、
地面に碍子を通して据え付けたものです。
第三軌条式は電圧を低くしている場合が殆どで、
導体になる第三軌条はそのまま「レール」で「太い」ので、
多くの電流を流す事が出来ます。
そのため、き電線とトロリー線の区分はありません。
集電装置の項で述べた通り、第三軌条と帰線のレールは至近距離にあり、
双方に触れて感電する危険性があるので、
電圧は750ボルトか600ボルトが主体になっています。
4、交流き電方式(交流電化方式)
交流き電方式は大きく分けてBT交流き電方式とAT交流き電方式があります。
何れも単相交流で電圧は在来線で2万ボルト、新幹線で2万5千ボルトになっています。
周波数は先に述べたとおり、50ヘルツと60ヘルツの二つがあります。
交流き電方式の場合、電圧が高いため、
き電線を別に設ける必要が無く、
トロリー線と帰線だけで構造が簡単になる・・・というわけにはいかなく、
交流電線には周期的に向きが変わる磁力やコロナ放電が発生します。
それらが通信誘導障害を起こし、
無線有線通信にノイズ(雑音)を発生させてしまいます。
これは鉄道通信だけでなく、
線路周辺の住宅の電話(携帯含む)、テレビ、アマチュア無線等にも
影響を与えてしまいます。
これを無くすには、トロリー線と帰線、ATき電線とトロリー線と言ったように、
電流の向き、磁力の方向が対向している線を近付けて、
お互いの磁力を相殺させる必要があります。
又は、遮蔽率の高いケーブルを使う方法もあります。
交流き電方式の場合で電力回生ブレーキを使うと、
架線に流れる電気は増えるのですが、
電気の流れは行ったり来たりの繰り返しなので、
流れの変化はありません。
また、直流き電方式のように一方通行の電気の流れではないので、
他に加速中の電車が無いと回生失効してしまうと言う事はありません。
4−1、吸い上げ変圧器交流き電方式
吸い上げ変圧器は英語でブースタートランスと言うので、
略してBT交流き電方式と言っている方式です。
「ブースター」と言うと、増幅とか昇圧とかの意味合いで使われることが多いのですが、
ここで言うブースターはそういった意味合いではなく、
押し上げとか吸い上げと言う意味で使っています。
BT交流き電方式は変圧器の1次側に電気を流すと、
2次側にも電気が流れようとする性質を利用した方式です。
比較的電化の古い交流電化線で採用されている方式で、
大体昭和45年位がBT交流き電方式とAT交流き電方式の境目になっているのですが、
既設交流電化区間の車両の関係で、
それ以降もBT交流き電方式を採用した路線があります。
昔は東海道新幹線もこの方式だったのですが、
大工事の上、今はAT交流き電方式に変更しています。
交流き電方式は電圧が高いため、
BT交流き電方式にはき電線は無く、
トロリー線のみにき電電流を流しています。
BT交流き電方式の架線を見ると、細いき電線っぽいのがあるのですが、
これは負き電線と言うもので、帰線電流を流す線です。
負き電線は懸垂碍子や可動ブラケットの碍子にも接続されていて、
地絡(大地上に電気が漏れてしまうこと)事故を起こさないようにする働きもあります。
負き電線に流れる電気は電位が低いため、
その支持碍子は懸垂碍子1個だけのところが殆どで、
あまり仰々しい絶縁は行なっていません。
BT交流き電方式は大体5キロ以内の間隔で吸い上げ変圧器が設置されています。
吸い上げ変圧器の1次側にトロリー線を接続し、
2次側に負き電線を接続します。
1次側に電気が流れると2次側にも流れようとするので、
レールを流れている帰線電流は負き電線と接続された吸い上げ線に吸い上げられ、
負き電線を流れるようになります。
負き電線はトロリー線の近くに張ってあるため、
通信誘導障害が起こりにくくなります。
なお、吸い上げ変圧器のあるところのトロリー線は
吸い上げ変圧器に接続されているため、
そこの区間はごく短いデッドセクション
(BTセクション/電気が流れていない電気の継目)になります。
このデッドセクションとその前後区間に色々問題があります。
先ず、デッドセクションは車両に全く電気が流れないので、
加速は全く出来ませんし、電力回生ブレーキもかけられません。
この区間は惰性で走行することになるのですが、
吸い上げ変圧器の設置間隔は結構短いため、
頻繁に惰性走行することになり、
特急電車などの優等列車はこの惰性走行で時間のロスになってしまいます。
それと、集電装置同士を高圧母線で引き通してしまうと、
デッドセクション前後のトロリー線の電気が吸い上げ変圧器を通らず、
車両の高圧母線に流れてしまい、短絡(ショート)してしまいます。
そうすると各電気回路に高圧の電気が流れ込み、回路が切れ、
電気機器が故障してしまいます。
そのため、高圧母線を引き通すことは出来ません。
・・・と、言うことは1つの集電装置が故障した場合のバックアップのために、
多く集電装置を搭載する必要があります。
そのため、車両製造コストがかかるだけでなく、
架線の磨耗も早くなってしまいます。
また、デッドセクション通過時は急激に負き電線に流れる電気の電圧が低下するため、
(電車がき電電流を集電しなければ、帰線電流も流れなくなる。)
デッドセクションのところでせん絡(アーク)放電が起こってしまいます。
せん絡放電とは、「パンタグラフから火花が〜。」と言うアレです。
急激に負き電線の電圧が低下しないよう、
ある程度その時のために電気を溜めておける
コンデンサが別途必要になります。
それ以外の欠点に冒頭の方で述べた、交流電気の電力損失です。
BT交流き電方式は直流き電方式に比べれば、
変電所の間隔を長く出来るのですが、
き電線を別個に設けていないので、
電圧を倍にして送電ロスを軽減させることは出来ません。
そのため、そこそこ変電所を設けなければならなくなります。
また、吸い上げ変圧器は帰線電流を完全に吸い上げられるわけではなく、
1次側に限界以上の電気が流れてしまうと、
吸い上げ効力がなくなってしまう欠点もあります。
4−2、単巻き変圧器交流き電方式
単巻き変圧器は英語でオートトランスフォーマーと言うので、
AT交流き電方式とも言います。
単巻き変圧器は1次側と2次側の巻き線が合さった変圧器です。
変圧器で変圧出来る電圧は巻き線の比率で決まる事を応用して、
2倍の電圧の送電を行い、電力ロスを少なくした方式です。
AT交流き電方式は、
BT交流き電方式のようにトロリー線だけにき電電流を流すのではなく、
直流き電方式のように別個にき電線を設けます。
このき電線をATき電線と言います。
ATき電線はトロリー線の2倍の電圧の電気が流れています。
(2万ボルトだったら4万ボルト)
そのため、ATき電線の電位は非常に高く、
大地等と比べると電位差が大きいため、
支持する懸垂碍子は何個も繋げて(4〜6個)絶縁しています。
また、ATき電線はトロリー線とは逆向きの電気が流れています。
ATき電線はトロリー線の近くに張られるため、
双方の磁力が打ち消しあい、通信誘導障害が起こりにくくなります。
単巻き変圧器の両端は、ATき電線とトロリー線にそれぞれ接続されていて、
その中点にはレールからの吸い上げ線が接続されています。
そのようにすると、帰線電流が吸い上げ線を通り、単巻き変圧器に吸い上げられます。
単巻き変圧器において、
トロリー線からATき電線が接続されている部分までの巻き線より、
トロリー線から吸い上げ線の接続されている中点の巻き線の方が
1/2で短くなっています。
変圧器の巻き線に応じて電圧が変わるので、
トロリー線の電圧はATき電線の1/2倍になります。
(逆に言うと、ATき電線はトロリー線の電圧の2倍。)
AT交流き電方式は、ATき電線に2倍の電圧が流れているので、
電力ロスが削減され、変電所の間隔を長くする事が出来ます。
また、単巻き変圧器の間隔も10キロメートル程度になり、
BT交流き電方式の吸い上げ変圧器より設置台数が少なくて済みます。
トロリー線は単巻き変圧器の片側だけに接続されているので、
単巻き変圧器の所でのデッドセクションは要りません。
そのため、BT交流き電方式より惰性走行の回数が削減され、
せん絡放電も少なくなります。
また、集電装置同士を高圧母線で引き通すことも可能なので、
集電装置を削減することが出来ます。
ただ、全くデッドセクションが無くなる訳ではなく、
電鉄変電所のき電区分が分かれるところ(各電鉄変電所の管轄が分かれるところ)では、
双方の電鉄変電所から送られる、
交流電気の0〜+〜0〜−〜0の変化のタイミングが
ずれているため(これを位相差と言います)、
双方の回路が繋がって短絡しないように、
この部分ではデッドセクションになっています。
新幹線はき電区分が分かれるところでも持続して加速出来るよう、
セクション自動切換え器を設け、
その中立区間は瞬時に前の電鉄変電所のき電電流から、
次の電鉄変電所のき電電流に切り替わるようになっています。
しかし、実際の運転では、
せん絡を避けるため、セクション自動切換器があっても極力惰性走行しているようです。
BT交流き電方式の負き電線は懸垂碍子や可動ブラケットの碍子などにも接続し、
それらからの地絡事故を防止する目的もあるのですが、
AT交流き電方式では負き電線がないため、
そのかわりとなる地絡防止地線(AT保護線とも言う)を設けて、
地絡事故を防止しています。
地絡防止地線は負き電線と同様に懸垂碍子等に接続されています。
4−3、同軸ケーブル交流き電方式
交流電化は高電圧なため、
電線から建物や道路などの構造物を決められた距離以上に離す必要があります。
しかし、建物が密集していて、それが困難な場合、
同軸ケーブルと言う、内部導体、外部導体の二重構造になったケーブルを使い、
合理的に架線関係をまとめる方法を採用する事があります。
同軸ケーブルの内部導体にき電電流を流し、
外部導体にレールから吸い上げた帰線電流を流します。
同軸ケーブル交流き電方式は負き電線もあるので、
帰線電流は双方に分けて流れる事になります。
負き電線はBT交流き電方式と同様、地絡対策のため、
懸垂碍子などにも接続されています。
同軸ケーブルの内部導体と外部導体の電気の流れは逆で
磁力線の向きも反対になるため、
通信誘導障害は起こりません。
また、負き電線はトロリー線の近くに張られるため、
こちらでも通信誘導障害は起こりません。
同軸ケーブルは電気を流しやすい特性がある一方、
電気が溜まりやすいと言う相反する欠点があり、
電気が溜まっていくと、0〜+〜0〜−〜0の波が異常に大きくなってしまったり、
サイクルが歪んでしまったりするので、
余計な波を除去する装置が必要になります。
また、同軸ケーブル自体高価で保守も面倒と言う欠点もあります。
もうちっと続きます。長々と申し訳ございません。
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