電車の制御方式って何!?その2

7、タップ制御


交流車に使う制御方式で一番古いタイプです。
交流電化の電気は在来線で2万V、新幹線で2万5千Vあり、
当然、そんな高圧の電気は必要ないので、
変圧器で電圧を落とすのですが、
その変圧器の電圧の低い側(低圧タップ制御の場合)に沢山のタップと言う、
切り替えスイッチを作ります。
このタップを巻き線の少ないタップ(図では一番下のタップ)から順に切り替えていき、
電圧を徐々に上げていくのです。
そうすると、モーターに流れる電気の電圧もだんだん上がっていくので、
モーターの回転をだんだん速くする事が出来るのです。
なお、タップ制御は直並列制御や弱め界磁制御も使うことが可能です。

ただ、タップで切り替えた電気は交流電気で、
直流モーターには使えません。
そこで、整流器というダイオードを使った回路を挟みます。
ダイオードは電気を一方向にしか流さない性質があるので、
プラスとマイナスがころころ切り替わる交流の電気を、
プラスとマイナスが変わらない直流の電気に変えることが出来ます。
(交流がどうやって直流になるのかは上の図をご参照ください。)

8、サイリスタ位相制御


サイリスタ位相制御は「面倒だからタップ切り替えと整流を一緒にやっちめぇ!」
と言う発想から生まれた制御で、
変圧器の低圧側に整流器をいくつか接続します(4つが一般的のようです)。
この整流器は従来のダイオードに変えて半導体のサイリスタを使います。
(一部はダイオードのままの整流器もあります。)
発進時は一番レール側(図では一番下)の整流器の回路だけ変圧器からの電気を流し、
速度が速くなると全部の整流器の回路に電気を流します。
ただし、整流器の回路に電気を流しっぱなしではなく、サイリスタの特性を使い、
電機子チョッパ制御のようにONとOFFを高速で繰り返します。
そうすると電気の波(位相と言います)の一部が途切れて、
モーターに流れる電気の量を調整することが出来るのです。
ただ、全整流器のサイリスタが同時にOFFすると、
電気の流れが瞬間的に途切れてしまうので、
電機子チョッパ制御と同じようにリアクトルを使い、
ONの時に邪魔して蓄えておいた電気をOFFの時に流します。

9、可変電圧可変周波数制御

一般的にVVVF制御とかVVVFインバータ制御とか言っている制御です。
ところで「VVVF」の読みですが、
専門家は「スリーヴイエフ」と読んでいる方が多いようです。
私は専門家ではありませんが、「スリーヴイエフ」と読んでいます。
しかし、鉄道ファンの方は「ヴイヴイヴイエフ」と読んでいる人が多いようです。
どちらも間違いではないのですが、
「スリーヴイエフとヴイヴイヴイエフは同じ」
と言うことを頭に入れておいたほうが良さそうです。

そもそも皆さん気軽に「VVVFインバータ」と言っていますが、
「インバータ」とは何かを知っている鉄道ファンは少ないと思います。
インバータとは直流の電気を交流の電気にする装置のことを言います。
つまり、インバータを使うには直流の電気が必要なのです。

9−1、VVVF制御(直流車)


直流車の場合のVVVF制御は単純で、
VVVFインバータ装置で直流の電気を三相交流と言う、
3つの波長を組み合わせた交流の電気に変えるのと同時に、
モーターに流れる電気の電圧と周波数を調整します。
なお、モーターは直流モーターでなく、交流モーターを使います。
交流モーターは固定子の各コイルに0→プラス→0→マイナス→0→・・・の電気が
一定時間毎にずれて流れることによって、
各コイルが順番ずつ磁気を強くしたり弱くしたりするので、
固定子内に回転する磁気が発生します。
そうすると、固定子内にある回転子がくるくる回るようになります。
この回転子の回転が歯車と駆動装置を経て、車軸に伝わるのです。
交流モーターは直流モータと異なり、回転子に電気を流す必要は無いので、
回転子と電気回路を繋ぐブラシなどの消耗品は要りません。
・・・と、言うことは保守が楽になる訳です。


簡単な図にするとこんな感じです。
回転子に電気を流さなくても
固定子の磁石が移動することで渦(うず)電流と言う電流が発生し、
磁気が発生するのです。

ちなみに交流モーターに流れる電気の電圧を高くすると馬力(トルク)があがり、
0→プラス→0→マイナス→0→・・・のサイクルを速くし(周波数を上げる)、
各コイルの磁気の強弱が速く繰り返されると回転が速くなります。


で、VVVFインバータ装置で直流を三相交流に変えるのには、
高速でON、OFF出来るスイッチが必要なのですが、
そのスイッチは2種類あり、
おなじみのサイリスタ(ゲート信号でオフ出来るサイリスタ、略してGTOサイリスタ!)を使う方式と、
トランジスタの組み合わせ(絶縁ゲート型両極性トランジスタ、略してIGBT!)を使う方式があります。
GTOサイリスタは1個のインバータで沢山のモーターをコントロール出来るのですが、
装置は大きくなり、作り出す三相交流はやや粗いです。
IGBTは1個のインバータで1、2個のモーターしかコントロール出来ませんが、
装置は小さくなり、作り出す三相交流も滑らかになります。

9−2、VVVF制御(交流車)


交流車もVVVFインバータ装置から交流モーターまでの回路は全く同じなのですが、
厄介なのはVVVFインバータ装置自体です。
そう!!インバータは直流の電気を交流の電気に変えるものなので、
架線に流れている交流の電気をそのまま使うことは出来ません!!
そのため、変圧器で電圧を下げた後、
コンバータ装置(または整流器)で一旦単相交流の電気を直流にして、
またVVVFインバータ装置で三相交流の電気にするのです。

一番アホなのが三相交流で電化されている新交通システムで、
折角三相交流で取り入れてもVVVFインバータ装置に電気を流せないので、
コンバータ装置で直流にしてからVVVFインバータ装置でまた三相交流にしています。
(三相交流電化の意味ねぇ!!)

なので、交流車の場合、
VVVFインバータ装置とコンバータ装置の値段から考えると、
「少しはマシになった」程度のメリットしかなく、
VVVF制御に変わる新たな制御方式の開発が必要かと思います。

9−3、交流モーターのすべり

VVVF制御は交流モーターを使うのですが、
一つ問題があります。
交流モーターの回転子はブラシなどで回路が繋がっていないため、
回転子は固定子から発生した回転磁束を受けてから回転します。
そのため、固定子から発生した回転磁束と回転子の回転には微妙なズレがあります。
このズレを「すべり」と言います。
すべりを修正する方法にはすべり周波数制御とすべり周波数型ベクトル制御があります。
どちらもコンピュータですべりを計算して、
VVVFインバータ装置に出力電圧、周波数を補正するように指令するものなのですが、
すべり周波数制御は回転磁束と回転子の電流は仮定として計算するのに対し、
すべり周波数型ベクトル制御は固定子の電圧、周波数から
回転磁束と回転子の電流の大きさをベクトルとして把握するようにしたものです。
すべり周波数型ベクトル制御はすべり周波数制御より正確で応答も速いので、
急激な変化(スリップなど)にも対応出来る様になっています。

〜VVVF制御の走行音〜

初期のVVVF制御(GTOサイリスタ)の電車は、
発進時にVVVFインバータ装置から「キューンキューン・・・」と言う、
パルスモードの変化に伴ううるさい音がする(沢山の大容量サイリスタを使うため)ので、
すぐ分かるのですが、
最近はだいぶ改良され、
最新のIGBTのVVVFインバータ装置からあまり音を発しなくなりました。
ただ、最新のVVVF車は電動車の比率が低いので、
編成全体で見れば走行音が抵抗制御車より遥かに静かな筈です。

10、可変電圧可変周波数制御(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)

昔のVVVFインバータ制御の半導体は、GTOサイリスタが主体だったのですが、
技術の進歩により、
IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)を使うことが多くなりました。


サイリスタの場合、ゲートからカソードに電流を流すと、
アノードからカソードに電流が流れるようになります。
しかし、従来のサイリスタは電流が流れるようになる(ターンオンする)と、
ずっと電流が流れ続けてしまいます。
GTOサイリスタは、ゲートに負の電流を流すことで、
アノードからカソードへの電流の流れをオフ(ターンオフ)することができます。
ただ、GTOサイリスタはターンオンとターンオフのスイッチング速度が遅いのと、
GTOサイリスタ自体のスイッチングに電力ロスが発生すること、
また、ノイズ音も激しいため、
IGBTが開発されました。
IGBTの端子部の名称がGTOサイリスタと異なる部分がありますが、
基本的にはGTOサイリスタと同じような仕組みになっています。
ゲートからエミッタの間の電圧が閾(しきい)値を超えると、
コレクタからエミッタに電流が流れるようになります。
構造的にはバイポーラ(双極性)トランジスタと
MOSFET構造を合わせたようになっています。
なお、バイポーラと言っても分かりにくいのですが、
p層-n層-p層または、n層-p層-n層に構成した素子のことを言います。
IGBTは入力部(ゲート側)がMOSFET構造、
出力部(コレクタ側)がバイポーラ構造になっています。

11、可変電圧可変周波数制御(モスフェット)


MOSFETは電界効果トランジスタ(FET)と、
金属酸化膜半導体(MOS)を合わせた造語で、
言葉の通り、二つを組み合わされて出来ています。
MOSFETはゲートとソースの間の電圧が閾(しきい)値を超えると、
ドレインからソースへ電気が流れるようになります。

現在の技術では、
IGBTのn+層にSiC(炭化ケイ素)を使用することができません。
しかし、
MOSFETにすると、n+層にSiC(炭化ケイ素)を使用することが可能になり、
モジュール全体が薄くなることで抵抗値が下がり、
さらなる省エネルギー化が出来ると言う利点があります。
また、動作にかかる電力損失はIGBTより更に少なくて済みます。

我々鉄道ファンが混乱してしまうのは、
IGBT-VVVFとか、SiC-VVVFとか言って、
IGBTとSiCが同系統の種類と勘違いしてしまうことです。
IGBTに対してはSiCではなく、MOSFETと区別するのが正しいと言えます。
これは、MOSFETはn+層に従来のケイ素も、炭化ケイ素も使えるし、
IGBTも今のところはn+層はケイ素を使っていますが、
技術革新次第で炭化ケイ素が使われるようになる可能性もあるからです。
正確に分類するのなら、
Si-IGBT-VVVF、Si-MOSFET-VVVF、
SiC-MOSFET-VVVFと分けるのが適当です。

電車の駆動装置って何!?

鉄道・なぜなに教室トップへ

川柳五七の電車のページトップへ

たわたわのぺーじトップへ