インキング製図法の道具1

インキング製図法は前のページで書きました通り、
今では殆ど使われていない製図方法です。
やるとしたら、製図・デザイン学校で、基礎として教えるくらいです。
ですので、ここではインキング製図法でどのような道具を使っていたのか、
資料館的に簡潔に説明したいと思います。



1、丸ペン


(写真の丸ペン先はゼブラ)
基本的に地図の製図は丸ペンで行います。
地図を製図する時は、ペン先にインクを少し浸して使います。
インクに浸すと毛細管の原理で、
インクがペン先の割れ目から吸いあがります。
その吸い上げたインクで製図します。
要は万年筆の小型版と考えた方が良いでしょう。

丸ペンはペン先とペン軸で構成されています。
ペン先は消耗品なので、
ダメになったらペン軸から外して付け替えることができます。
丸ペンのペン先は0.5ミリに設定されていますが、
漫画と違って、地図ではそんな太い線を使うことは殆どないので、
紙やすりでペン先を削って細くします。
紙やすりは1000番以上の細かいものを使います。
なお、ペン先は、タチカワ日光、ゼブラ、ジロットの3社から出ていますが、
地図製図ではタチカワ日光を推奨しています。
で、3社のペン先の違いは以下の通りです。

●a,タチカワ日光

元々は「日光」と言う会社で作っていたペン先なのですが、
バブル崩壊の頃、その会社は倒産してしまいます。
そのときは地図製図士だけでなく、
漫画家の人もパニックになり、かなりペン先を買い占めたそうです。
現在、「日光」として売られている丸ペンは日光で作っているものではなく、
タチカワ株式会社で作っています。
ただ、生産ラインは「日光」時代のものをそのまま受け継いでいるので、
品質的には日光時代と変化ありません。
丸ペン先のシェアでは日本一で、
地図製図士の他、漫画家の人も多く使っています。
特徴は、ゼブラ、ジロットに比べてペン先が堅く、
長期にわたって使用できると言う特徴があります。

●b,ゼブラ

ゼブラの場合は、タチカワ日光と違って、
ハードタイプ、ソフトタイプなど複数種類があります。
ハードタイプはタチカワ日光と殆ど違いはありません。
(しかし、漫画家の人はゼブラのハードはかなり硬いと感じるらしいです。)
ソフトタイプはタチカワ日光よりやわらかいです。
実は私、タチカワ日光でなくゼブラのソフトタイプを使っています。
これは、タチカワ日光のように硬くなく、ジロットのようにやわらかすぎないので、
オールマイティに使えるからです。

●c,ジロット

タチカワ日光とゼブラは日本製ですが、ジロットはフランス製です。
とにかくやわらかいのが特徴で、
筆圧の強い方にはお勧めできないペン先です。
筆圧の強い方が使うと、ペン先が開いてしまい、線が太くなります。
地図製図においては、太い線から細い線まで一本で書けるペン先だったので、
昔の図式で崖記号(ケバ)を書くときに必要でした。
しかし、今の図式の崖記号はただの線なので、
タチカワ日光で書けます。
なので、今は一般的に使われていません。

2、ガラス棒


「ガラス棒」と言うと絵画で使うガラス棒を思い浮かべてしまうのですが、
製図のガラス棒はそれとは全く別のものです。
製図のガラス棒は、ガラスの棒の両側にリング状の黒ゴムを付けただけのものです。
ガラス棒は丸ペンで直線を書くときに使います。
ただ、ガラス棒は使い慣れないとコロコロ転がってしまい、
上手く直線が書けません。
・・・と、言う風に書くと、
「じゃあ、定規を使って直線を書けば良いじゃないか」
と突っ込む方もいらっしゃるかと思いますが、
定規を使うと下記の2点の悲惨な出来事に遭遇してしまいます。

その1、丸ペン先から出たインクが毛細管現象で定規の下まで浸透してしまい、
インクがドバッと図面に広がってしまう。

その2、折角製図した部分に定規を乗せてしまうと、定規の摩擦でインクがかすれてしまう。

と、言うわけで、丸ペンで直線を書くときはガラス棒でないとダメなのです。

あと、これは余談なのですが、丸ペンで注記の文字を書くときは、
横線はガラス棒を使い、縦線はフリーハンドで書きます。

3、削刀(さくとう)


間違えてしまった部分のインクを削る時に使います。
写真は反対側を撮影していますが、
実際使う時は写真裏側の平らな方を上にして使います。
削刀は持ち方が独特で、タコ糸が巻かれている部分を、
親指と人差し指で挟んで、中指、薬指は添えるだけ、
小指は立てて持ちます。


削刀でインクを削る時は上図の通りにします。
ベースを削刀で傷をつけないよう、
インクだけを削ぎ落とすように使います。

4、砂消しゴム


製図で使う砂消しゴムは、一般の砂消しゴムと違い、
キメの細かいものを使います。
また、細かい部分で使うので、ペン状になったものを使います。
間違えてしまった部分は削刀で削るのですが、
削刀だけではインクの削り残しが出てしまいます。
また、ベースに傷をつけないよう慎重に削刀を使っても、
ベースに細かい傷(丸ペン先の傷など)は出来てしまいます。
また、ベースの表面もツルツルになってしまい、
書き直しがしにくくなります。
そこで、砂消しゴムを使い、
ベースを弱くこすってベースの表面上を平にし、
なおかつ元のざらついた表面に戻します。

インキング製図法の道具2

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