緊急特集・福知山線の脱線事故

100人以上の死亡事故を起こした、
JR福知山線(以下愛称名のJR宝塚線を使います)脱線事故。
陸上交通で一番安全なはずの鉄道で、なぜこのような事故が起こってしまったのか。
ここでは、私的見解を述べてみたいと思います。
なお、この特集はJR宝塚線事故後に公開したもので、
事故から1年後の2006年4月、一部修正の上再公開しています。



1、JR宝塚線のダイヤは無理があった。

表1・事故を起こした列車のダイヤ

距離
駅名
事故を起こした
列車のダイヤ
本来の無理のない
列車のダイヤ
備考
0.0KM
宝塚
9:03
9:03
阪急と競争関係
3.3KM
中山寺
9:06
9:07
快速新停車駅
6.8KM
川西池田
9:10
9:11
9.9KM
北伊丹
12.0KM
伊丹
9:14
9:16
オーバーランを起こす
13.9KM
猪名寺
運転士との連絡がとれない
15.3KM
塚口
ダイヤが1分回復
17.8KM
尼崎
9:20
9:22
カーブで脱線事故

表2・事故を起こした列車の前後の列車(宝塚駅)

行き先 種別 時刻 備考
木津 快速 8:46
放出(はなてん) 普通 8:53
大阪 普通 8:58
新大阪 特急「北近畿」 9:02 線路に置石などの異常がないと証言。
同志社前 快速 9:03 脱線事故を起こす。
大阪 快速 9:07
大阪 普通 9:14

表1は事故を起こした列車のダイヤです。
私はこのダイヤを見て、とても「ラッシュ時のダイヤではない」と感じました。
距離数と停車駅数などを鑑みると、だいぶ余裕のないダイヤだということが分かります。
本来は、右のダイヤが丁度良く、
尼崎駅までの所要時間は+2分が妥当ではなかったかと思います。
そうすれば、たった1分30秒のためにこんな大惨事を起こすことはなかったはずです。
特に余裕のないのが川西池田〜伊丹間で、
5.2qを4分強で運転しなければならないという過酷なものです。
この区間がこんなに過酷になったのは、快速停車駅に中山寺駅が追加され、
その停車時間分をこの区間の短縮で補おうとしたからだと思います。
ただ、阪急宝塚線は線形が悪く、
ここまでギリギリのダイヤでJRは対抗する必要があったのか大いに疑問です。

次にメディアで盛んに言われている過密ダイヤですが、
表2が宝塚駅の事故列車前後のダイヤです。
事故列車の前の特急との間隔は短いですが、
それ以外は4〜7分で、異常に過密と言うわけではありません。
ただ、問題は行き先がバラバラで、
JR京都・神戸線乗り入れ、JR東西・学研都市線乗り入れと複雑になっています。
要は、JR宝塚線のダイヤが乱れてしまうと、
これら乗り入れ先のダイヤまで乱れてしまうのです。
JR西日本がJR宝塚線の運行を秒単位で管理していたのは、
アーバンネットワーク全体の乱れを阻止しようと言う考えが働いたからだと思います。

2、区間別分析

先ずはこの事故を起こした列車について、
宝塚駅方向から順番に見ていきたいと思います。

〜宝塚駅〜

高見運転士は宝塚駅に回送電車を進入させる際、
軽いオーバーランを起こしています。
ただ、このオーバーランは回送だったためかあまり問題にされずに処理されています。
そして、9時3分に高見運転士の運転する電車は発車しています。
なお、高見運転士の運転する電車の1分前には特急北近畿が発車しています。
この1分前の特急北近畿は、線路に異常はなかったと運転士が証言している列車です。

〜中山寺駅〜

中山寺駅は新しく快速停車駅に追加された駅です。
メディアで報道されている、
「停車駅が1駅増えてもダイヤはそのまま」の”1駅”はこの中山寺駅です。
本来は快速を停車させるほど利用客が多い訳ではないのですが、
阪急宝塚線の乗客を奪うために、あえてこの駅を停車駅にさせたのだと思います。
なお、この駅では特にオーバーランさせずに停車させています。

〜川西池田駅〜

川西池田駅でも高見運転士はオーバーランを起こします。

〜伊丹駅〜

1駅通過して伊丹駅に停車します。
ここの区間のダイヤは厳しいので、高見運転士はかなり飛ばしていたと思われます。
そして伊丹駅で40〜50メートルのオーバーランを起こし、バックさせましたが、
10メートルほど戻りすぎてしまいます。
ここで日勤教育が頭をよぎった高見運転士は、
車掌にオーバーランは8メートルにしてくれと口裏あわせをします。

〜伊丹駅から事故現場のカーブまで〜

オーバーランを8メートルに誤魔化しても、
1分30秒の遅れは、やはり日勤教育に繋がりかねないので、
この遅れを取り戻すために高見運転士は暴走運転を始めます。
事故を起こした207系電車の最高速度は時速120qと言われますが、
実際は時速120q以上加速が可能で、
実際高見運転士は時速120q以上出していたと思われます。
と、言うのはギリギリなダイヤな筈なのに、
塚口駅通過時点で1分もダイヤが回復していたからです。
伊丹〜事故を起こしたカーブまでは時速120q弱で走行する区間なので、
時速120qで走らせてもダイヤが回復しません。
実際回復させるには、時速120q以上出さないと説明がつきません。
なお、この時点で高見運転士は指令からの応答に答えていません。
もう彼の頭の中は日勤教育の恐怖で蒼白状態になっていたと思われます。
そして、ふと我に返ると、
半径300メートル(制限速度時速70q・現在は60q)カーブの直前になってしまい、
高見運転士は慌てて急ブレーキをかけます。
専門家の一部はブレーキをかけてないと説明していますが、
乗客の証言から考えると急ブレーキをかけたのはほぼ間違いないと思います。
ここで、車輪がロック状態になり、
スピードオーバーが強い遠心力をまねき、車体が外に引っ張られ、脱線し、
傾いたままマンションに激突したと言うのが有力です。
なお、最後の時点で出していたスピードは時速108qと言われています。
(しかし、その後スピードメーターの誤差で時速115q前後に修正されています。)
なお、最初JR西日本が言っていた、
置石による粉砕痕は捏造だと言うことが有力になっています。

3、伊丹駅はオーバーランしやすい条件がそろっている

メディアであまり取り上げられないのが、
なぜ伊丹駅で高見運転士はオーバーランを起こしたかと言うことです。
先に言ったように、川西池田〜伊丹間はダイヤがかなり厳しくなっています。
川西池田駅をでるとすぐカーブが始まり、まともにスピードが上げられません。
北伊丹駅まで緩いながらもくねくねカーブが続き、
北伊丹駅直前でやっと線形が緩やかになります。
北伊丹駅を通過する時点でもう残り時間が少ないので、
次の伊丹駅まで一気に加速します。
そして伊丹駅ギリギリまで加速してブレーキをかけるので、
ちょっとした動作の遅れがオーバーランに繋がるのです。
もう一つの条件に伊丹駅は見通しの良い相対式2線だと言うことです。
私が今まで体験した3回の列車オーバーランのうち2回は、
相対式2線の見通しの良い駅になっています。
しかも、途中まではスピードがなかなか上げられず、やっと線形が良くなり、
駅停車ギリギリまで速度を上げるというところもぴったり一致します。
要は、「制限区間〜制限解除〜相対式2線の見通しの良い駅」は
オーバーランを起こしやすいのです。

〜補足事項〜

各メディアでは連日のように各路線のオーバーランを報道していますが、
問題はオーバーランではありません。
電車の制動距離や制動時間を考慮すると、
電車を所定の位置に止めるのはかなり難しいのです。
問題は、オーバーランをするほど、川西池田〜伊丹間のダイヤに余裕がなく、
高見運転士は、ここでもかなり焦っていたと言う事です。
これが、尼崎駅前のカーブ脱線事故と点と線で結ばれる重要事項なのです。

4、今回の事故は脱線防止ガードがあっても防げなかった

最初、私はメディアの報道を見た限り、すりあがり脱線かと思っていたので、
脱線防止ガード(護輪軌条)がないのが事故を拡大させたのかと思っていましたが、
実際は、遠心力で車体が傾き、内側の車輪が浮いてしまったようなので、
脱線防止ガードがあっても防ぐことは出来なかった脱線だと思われます。

5、古いATSは問題だが、新型ATS設置にも問題がある

今回の事故で更に問題になったのは古いATSだと言われています。
初期のATSは信号無視を起こした時だけブレーキがかかるもので、
スピードオーバーには対応していません。
しかも、ATSのベルが鳴っても確認ボタンを押してしまうとフリーになってしまうと言う、
全然安全装置になっていない安全装置です。
JR宝塚線はこの古いATSを若干改良したものを使っていましたが、
やはりスピードオーバーには対応していませんでした。
じゃあ、速度照査のできる新型のATSやATCに変えればいいかと言えばそう簡単でもなく、
この新型ATSやATCの設置費用はとてつもない額になります。
しかも、JR宝塚線だけに導入すればいいと言う問題でもないので、
当然日本鉄道各線に設置が義務付けられなければならなくなります。
経営的に厳しい鉄道会社には重い負担となってしまいます。

6、207系電車はもろい

207系電車がもろいのが被害を拡大させたと言われますが、
今日本の新型電車は殆どもろい電車ばかりです。
まだ207系電車はマシで、JR東日本のE231系電車はさらに壊れやすいです。
車両を壊れやすくして衝突事故時の圧迫死を防ぐと言う目的もありますが、
営団日比谷線(現・東京メトロ日比谷線)の脱線事故など、
今までの鉄道事故を見た限りでは、
この壊れやすさが大惨事になっています。
現在日本の鉄道の車両は保守省力軽量化に走りすぎているのですが、
やはり車体の強度も考えなければなりません。
ただ、残念ながら車両メーカー側はこの傾向を是正する態度を見せていません。

7、1分でも遅れると怒り出す乗客がいるのが根底の問題

この脱線事故の一番の問題は、JR西日本の儲け主義だと言われています。
しかし、JR西日本が儲けるための「サービスを欲している」のは、残念ながら乗客だと言えます。
実際遅い阪急よりも速いJRを選択している乗客が多いと言うことです。
日本人は時間にシビア過ぎで、たった数分のことでもガタガタ言う人間が多いです。
1分遅れただけでも駅員につかみかかったり、
怒鳴り飛ばしている乗客を私は何回も見ています。
民間企業ならば、顧客のサービスニーズに応えるのは当然で、
1分でも縮めることがサービス(顧客ニーズ)ならば、それに応えるのは当然と言えます。
JR西日本の問題は、サービスに走るあまり、
安全と言う根本的なものを欠いてしまったと言う事です。
先ずは「稼ぐ」まえに「安全」ということが優先ではなかったのではないかと思います。
そのためには、ある程度顧客ニーズは切り捨てるべきであったはずです。

8、JR学研都市線も無理なダイヤ

今回事故を起こしたのはJR宝塚線ですが、
JR東西線を介して対に乗り入れているJR学研都市線(片町線)も無理なダイヤになっています。
JR宝塚線は中山寺を快速停車駅に増やしましたが、
こちらは星田を快速停車駅に増やしています。
やはりこちらも快速の運転時間は延ばしていないので、無理なダイヤになっています。
今回の事故はアーバンネットワーク全体の見直しが必要だと言えます。

9、事故車両に乗っていた運転士2人がそのまま救助活動せず、
出勤したことについてのメディアのいい加減な記事や報道について

ボーリング大会から端を発し、JR西日本のお粗末さをなんとか探して出して記事にし、
盛り上げようと、各メディアは必死ですが、
事故車両に乗っていたJR西日本の運転士2人が、
上司の命令で救助活動せず出勤したことが、
本当に不適切な行動だったかどうかはもっと吟味して記事に書くべきだと思います。
実際この該当上司は、かなり難しい選択を強いられていたと思います。
この運転士2人が仮に救助活動していたら、
この運転士たちが運転すべき電車が運転できなくなり、
他の乗客に迷惑がかかっていた可能性もあります。
そうかと言って事故で苦しんでいる方を見捨てるのも、
人間としてあるまじき行動でもあります。
救助活動をして運転すべき責務を放棄するか、
救助を放棄して運転すべき責務を果たすかを両天秤にかけると、
どちらとも言えないはずです。
今回の事故の各メディアの論点は、
”事故本体”からずれてしまっているとしか言いようがありません。
遺族の気持ちを考えると、
ただ発行部数や視聴率を上げようとしか考えていないメディアに怒りを感じます。

10、暴言を吐いた記者

今回の事故は、日勤教育など、
JR西日本が儲け主義に走るあまり、安全性を軽視してしまったことが、
根本的原因になっています。
今回の事故で、「儲け=良い=安全」ではないと言うことが証明されました。
これは日本社会にとって大きな教訓になったと思います。
しかし、今回の事故での教訓はそれだけではなく、
メディアの取材のあり方も大きく問題になりました、
JR西日本に対し暴言を吐いた記者に対する苦情は相当なものだったようです。
被害者の立場に立った顔をしても、
所詮記者は雑誌などの発行部数をあげようと考えている「偽善者」に過ぎないのです。
また、悲しみで辛い遺族に執拗に取材を申し込むメディアも常軌を逸しています。
一部のニュース番組では、
今回のメディア取材のあり方に疑問を投げかけた特集もありましたが、
結局は何一つ反省することなく、
今でも論点のずれた論調や取材活動を行っています。

11、こんな大事故でも小泉首相は沈黙

これもメディアに全然取り上げていないのですが、こんな大惨事が起こったのに、
小泉首相は、お悔やみの言葉を言っただけでその後アクションは何も起こしていません。
JR西日本の事故は、小泉首相にとって分が悪い事故だからです。
要は民営化したJRが、儲けに走り大惨事を起こしてしまったことは、
郵政民営化に固執する小泉首相にとって、頭の痛い問題だと言えます。
貝になってだんまりを決め、郵政民営化問題に飛び火することを避けているようです。

〜補足事項〜

小泉首相の腰巾着とも言うべき作家I氏が、JR西日本は「官僚」だと言って反論していますが、
こんなピントのずれた作家が政治に参入しているかと思うと、日本の将来が暗くなります。
仮にJR西日本が「官僚」だったとすれば、
「1分半の遅れなどどうでもよい」と言ったのんびり運転をしていたはずです。
今回の事故はJR西日本が「官僚」でなくなったことから起きた事故なのです。
だいたいもう民営化して18年が経つと言うのに、
なんでここで「官僚」と言う文言が出てくるのか不思議です。

12、なぜ出てくる、鉄道ジャーナリストK氏

この脱線事故以来、TBS系を中心に出ている鉄道ジャーナリストK氏。
私は、このK氏をコメンテーター依頼するTBSが信じられません。
TBSが単に「K氏が鉄道に詳しい最も有名な人」だから出演依頼しているのだとすると、
とんでもないことと言えます。
K氏も出演を辞退すればいいのですが、
金がほしいのかTV出演して言いたいことを言っています。
鉄道ファンならご存知だと思いますが、
K氏はJR宝塚線のような速達ダイヤを賞賛しています。
つまり、JR宝塚線のような無理なダイヤを欲した一人が、
無理なダイヤによって起きた事故に「JRは安全対策が遅れている」と言っているのです。
かなりこれは滑稽だと言えます。
しかも、K氏は鉄道ジャーナリストと言っても脱線のメカニズムに詳しいわけではないので、
言っていることがちぐはぐでしどろもどろになっています。
「私は脱線の専門家ではない」とやはり出演は辞退するべきです。
もしくは、出演するならば、「私の論調が間違っていた」と反省するべきではないでしょうか。

〜補足事項〜

その後、K氏はこの脱線事故についての著書を書いていますが、
その後はあまり表舞台に出なくなりました。
また、書店に行っても平積みされなくなりつつあり、
K氏の鉄道論は崩壊しているのだと思われます。
もちろんK氏の信奉者は今でも沢山いるのは事実ですが、
この事故後K氏の鉄道論に反発した鉄道ファンはかなりいると思われます。
もちろん、弊サイト作者もこの事故以後は一切K氏の著書は購入していません。

13、事故から1年になんで・・!

事故から1年が経過した2006年4月、
信じられない企画が打ち立てられました。
脱線事故を元にしたドラマを放送すると言うものです。
私はこの話を聞いたとき、唖然としてしまいました。
遺族の傷も癒えないというのに、ドラマを放送するTV局の神経が信じられません。
TV局はただ単に視聴率を稼ぐことしか考えていない気がします。
もちろん、一部の遺族の中には事故を風化させないために、
ドラマの放送に賛同する方もいらっしゃるとは思いますが、
だいたいは遺族の神経を逆なでしたり、
悲しみや心の傷を広げてしまうだけだと思います。
事故に関係ない我々はもう1年経ったと思っても、
遺族にとってはまだ1年なのです。
TV局はそのことをもっと考えるべきだと思います。

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